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秋田地方裁判所 昭和23年(行)33号 判決

原告 篠木正次

被告 秋田県知事

一、主  文

原告の請求は、これを棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

二、事  実

第一、請求の趣旨並びに原因

原告訴訟代理人は、請求の趣旨として「被告が昭和二十三年三月十七日なした秋田県雄勝郡三輪村杉宮所在三輪神社並びに元稲田神社規則の受理は無効とする。被告が前記神社規則についてなした登記嘱託は、これを取り消す。」旨の判決を求め、その請求の原因として、左のとおり陳述した。

一、原告は、昭和二十一年六月三輪神社並びに元稲田神社の主管者であつたので、その責任上、昭和二十一年勅令第七十号附則第三項の規定に基いて、右両神社の規則を被告に届け出た。

しかして、右届書は被告によつて受理されたが、被告の秋田司法事務局西馬音内出張所に対してなした登記嘱託は、昭和二十三年二月中旬頃書類不備のために返戻された。

そうして、被告から原告に右届書を却下する旨の書面と共に神社規則並びに登記嘱託書が郵便で返戻された。よつて、主管者の一人である訴外大野直治は両神社の存続を計らんとして、原告が不在であつたので、原告に連絡の上で、昭和二十三年三月三日緊急役員会を開催し、書類を訂正すべく善処したのであるが、代務者三輪逸男、氏子総代太田純実の二名これを拒否したため、書類訂正はついに不可能となつた。

したがつて、両神社の規則届出は法定期間内である昭和二十一年八月一日までになさなかつたから両神社は当然解散されたものと看做されるに至つた。

二、しかるところ右三輪逸男並びに太田純実は、主管者たる原告の留守中を奇貨とし、氏子総会の開催を主管者の他の一人大野直治に強要したが、大野は原告の帰宅後にせられ度い旨答えたのに、右両名は半強迫的に同年三月十二日その意思に反して氏子総会を開催させ、その席上太田純実自ら議長となつて議事を進め、新に神社規則を作成しこれを読み上げて承認を得、原告の主管者たる地位を否認、新に三輪逸男を任命する決議をした。しかして、太田は右総会で承認を得た神社規則と共に神社届書の書類を作成、同年三月十五日三輪逸男と二人で被告秋田県に出頭届け出た。しかし、右届出には所属教派の承認書が必要である旨を被告から告知され、同月十六日神社本庁秋田支庁に前記両名が出頭し、承認書並びに資格証明書を得て、同月十七日届け出た。

三、けれども、右神社規則は原告等が適法な手続によつて作成した神社規則並びに神社設立届書とは全く異る全然別個の手続によつて作成された。その内容、主管者、氏子総代の氏名の一致しない別個の書類であるから、先に原告等の提出した書類の訂正又は追完とはいわれないことは明かである。仮に、適法のものとしても法定期間内に、即ち昭和二十一年勅令第七十号附則の期間内に届け出たことにはならないから当然受理せらるべきものではない。尚、右神社規則は法定の具備要件たる公益事業に関する事項の明記がない、又主管者たる大野直治を強迫して招集させたものであり、且つ、出席者少数のため爾後に於て委任状を取りまとめたものであるから無効である。

四、尚、被告は原告の昭和二十一年勅令第七十号附則第三項の規定に基く本件神社規則の届出に対してなした被告の処分は、書類の却下でなく返戻であると主張するけれども、そもそも却下という知事の行政処分には一定の様式は必要でない。したがつて、届出に法定期間の定めのある本件にあつては、仮に被告主張の如くそれが却下でなかつたとしても、原告が正当な手続を経て期間内に届出た書類を期間経過後被告官庁の手元を一秒間でも離れた以上、却下であると返戻であるとを問わず不受理となつたことは明白で、況や、その期間を三年間も経過した今日その届出書類が却下という文言の書面によつて秋田県社会教育課から郵便で届出人に送達されたものであるから不受理という行政処分であることは明かである。(但し、本件却下処分は西洋紙四つ切れの用紙に社会教育課名を以つて何等の押印なく届出書類と共に返送された事実は争わない)したがつて、被告官庁が法定期間を二ケ年も経過した昭和二十三年三月十七日却下となつた原告の届け出た神社規則のあることを熟知して居りながら、不法に作成した別個の新な規則書の届出を受理したのは違法である。又氏子の総意があつたと仮定してもそれは前述した被告の書類不受理という行政処分があつたのであるから無効である。

五、本件は一部野心家が有効に成立した原告作成の書類に一部印鑑に相違あることを奇貨として一部ボス勢力と結合、県庁の役員と共謀した結果の所産で、神聖な神社を己の利益と野心とに利用原告の主管者たる地位を奪う暴挙に出でたもので、一地方の宗教的信仰の中心である神社を冒涜するも甚だしいもので、その裏面には国有林である境内立木の無償払下という利権に執着する利権屋の神を恐れない無謀な策動に出でたものである。公共の福祉の名の下に個人である原告の権利は蹂躙さるべきでなく、尚、本件は、行政事件訴訟特例法第十一条にいわゆる公共の福祉に適合しない場合ではない。

第二、被告の答弁

被告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、原告の主張事実中原告が昭和二十一年六月その主張のように三輪神社及び元稲田神社の規則を昭和二十一年勅令第七十号附則第二項の規定に基いて被告に届け出で、被告はこれを受理したが秋田司法事務局西馬音内出張所に対してなしたその登記嘱託は書類不備のために返戻されたことはこれを認めるが、訴外大野直治が原告主張のように昭和二十三年三月三日緊急役員会を開催前記書類の不備訂正に善処したところ、代務者三輪逸男、氏子総代太田純実の両名これを拒否したため書類訂正が不可能となつたこと、及び三輪逸男太田純実の両名が主管者大野直治を半強迫して氏子総会を開催させ、新に神社規則を制定、原告の主管者たる地位を否認、三輪逸男を任命したとのことは不知、その余の事実は否認する。

一、そもそも、本件神社規則の受理は、被告は、先に原告が昭和二十一年勅令第七十号附則第三項の期間内に届出た書類に不備の点があつたので、一応これを返戻し、訂正の上再度の届出があつたから、これを最初から係属したものと認めて受理したものであつた。素より最初の届出を却下したものではない。原告は最初の書類については却下なる行政処分があつたと主張するけれど、行政上の却下は秋田県知事の名を以つてなさるべきで付箋して、即ち単に西洋紙四つ切れに社会教育課の差出を以つて、その権限のない者が却下なる文言を使用して返却したところで、それは行政処分たる却下でない。被告は後で提出された本件神社規則を返戻書類の不備を訂正の上、届け出たものと認め、先に届出の日に遡つて有効としてこれを受理し、且つ、登記嘱託をなしたのであるから違法でない。

二、尚、抗弁として、原告は本件訴訟結果について何等の利益のないものであるから本訴請求は失当である。

(立証省略)

三、理  由

一、先ず、原告は本件訴訟の結果について何等の利益がないとの被告の抗弁について案ずるに、そもそも原告の主張するところは、原告は三輪神社並びに元稲田神社の主管者であつて、その責任上昭和二十一年勅令第七十号附則第三項に基いて、昭和二十一年六月右両神社の規則書を被告に届け出てその存立を図らんとしたところ、その後に於て、訴外三輪逸男、太田純実の両名主管者の一人大野直治を強迫し、臨時氏子総会を開催させ、原告の主管者たる地位を否認、原告の届け出た神社規則と全然別個の本件神社規則を制定してこれを届け出た、というのであるから、したがつて、原告は本件訴訟に於て、その無効なることの判決を求めるについて利益を有するといわなければならない。被告の右抗弁は採用できない。

二、よつて、本案について判断する。

原告が三輪神社並びに元稲田神社の主管者として右両神社規則を昭和二十一年勅令第七十号附則第三項の規定に基いて昭和二十一年六月被告に届け出たこと、右書類は被告によつて受理されたが、秋田司法事務局西馬音内出張所に対して被告がなした登記嘱託は、書類不備のため昭和二十三年二月中旬頃被告に返戻され更に被告から原告に返戻したこと当事者間に争がない。

(1)  原告は、原告が昭和二十一年六月三輪神社並びに元稲田神社の規則を昭和二十一年勅令第七十号附則第三項に基いて被告に届け出たが、その届出た神社規則が、後で被告によつて返戻されたのは、却下という行政処分であると主張する。

よつて、成立の争のない甲第一号証の一、二、証人進藤正悦の証言を綜合すれば、原告によつて届け出られた三輪神社並びに元稲田神社の規則は被告によつて受理されたが、被告が秋田司法事務局西馬音内出張所に登記嘱託をした後で、右書類に不備の点を発見したこと、そこで被告はその補正を求めるため、不備事項を訂正して再提出するよう書類を原告に返戻したことが認められる。しからば、被告の右行為は、原告が被告に対してなした神社規則の届出を排斥した処分、即ち却下であるということはできない。この点に関する原告の主張は理由がない。

(2)  原告は、原告の被告に届け出た神社規則と三輪逸男等によつて届け出られた本件神社規則とは全く異る別個のもので、且つ三輪逸男等によつて提出された本件神社規則は原告によつて提出された神社規則の訂正又は追完ということはできないと主張する。

そこで、成立に争のない甲第一号証の三、同第二号証の二、乙第一、第二号証を対比すると、その内容、主管者氏名総代の各一部に相違あることは明かであるが、証人大野直治、同大野政之助、同太田純実の証言を綜合すれば、原告によつて届け出られた三輪神社並びに元稲田神社規則が、書類不備のため被告によつて返戻されたので、その不備訂正のため、主管者の一人大野直治は、在京中であつた原告とは、電報で連絡の上、昭和二十三年三月十二日臨時氏子総会を開催したこと、右総会は出席者五十二名、委任出席者六十数名で有効に成立したこと、太田純実が議長を務めたこと、右総会で原告から届け出られた神社規則のとおり訂正することに出席者全員賛成で、規則は氏子総代に一任となり、その総代会で満場一致承認となつたこと等を認めることができる。他に右認定を左右するに足る証拠がない。しからば、原告の届け出た三輪神社及び元稲田神社の規則は適法に本件神社規則のとおりに訂正されたものであるということができる。この点に関する原告の主張も亦理由がない。

(3)  原告はまた、本件神社規則は、法定期間内に届け出たものでないと主張する。

よつて、案ずるに、原告が主管者として三輪神社並びに元稲田神社の規則を昭和二十一年勅令第七十号附則第三項の期間内に届け出でたことは当事者の争わないところであり、且つ、本件神社規則が曩に原告の届け出た神社規則を適法に訂正したものであることは前段認定のとおりであり、この訂正された神社規則を被告の指示に基いて再提出、受理されたことは証人進藤正悦の証言によつて認めることができる。しからば、この訂正された神社規則の届出は、訂正前の神社規則が届け出られた日即ち昭和二十一年六月であるということができる。

しかして、昭和二十一年二月二日勅令第七十号附則第三項によれば、神社規則の地方長官えの届出は、本令施行の日(註、本令は公布の日から施行)から六月内に届け出ずることとなつているから、本件神社規則は右期間内に届け出たこと明かである。原告の主張は理由がない。

(4)  更に原告は、昭和二十三年三月十二日の臨時氏子総会は、主管者大野直治を強迫して招集した違法のものであり、又出席者少数のため、爾後に於て委任状を取りまとめたものであると主張する。

案ずるに、この点については、いずれも右の各事実を認め得る証拠がない。

したがつて、原告の主張は採用できない。

(5)  更に又原告は、本件神社規則は法定の具備要件である公益事業に関する事項の明記がない。したがつて、無効である、と主張する。

そこで、本件三輪神社並びに元稲田神社規則を検討するに、特に公益に関する事項としての一項目はないが、両神社規則ともその第六条から第十一条までの規定は、畢竟するところ公益に関するものといえるから、原告の主張は採用できない。

以上いずれの点からしても原告の主張はその理由がないから失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 百武一 安田忠治 阿部哲太郎)

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